2012年11月03日

「無への道程」が構築した、他人が入り込めない自殺の舞台

 冗談じゃない雰囲気で「死にたい」と漏らすブログは、リスカとかと同じで、誰かに助けを求めているところが多分にあると思う。だけど、200日以上前から自殺日のカウントダウンを続けてきた「無への道程」の人には、ちょっと違う印象を受ける。

sn003.PNG 無への道程の筆者は30台半ばの男性。2009年にスタートした頃はよくあるFXブログで、タイトルも違った。方向転換したのは、東日本大震災まもなくに致命的な損失を出して撤退した直後だ。FXによるセミリタイアを諦めた彼は、職も辞して自殺を決意し、その旨をブログで発表する。すぐにというわけじゃなく、貯金が底を尽きた頃に死のうということだった。それから若干の予定変更を経て、最終的に終わりと設定したのは2012年10月末。その日が来るまで、冒頭に「死ぬまで後●日」と綴るカウントダウン日記をアップするようになった。

 自殺の決意を表明したのは2011年6月初旬で、最終更新は2012年10月29日。この約17ヶ月の間、定期的にアップされる日記には、死に対する分析や、世の中への愚痴と不満、「自殺は逃げ」という観念に対する反論がたびたび刻まれていった。その節々に、自虐しつつも消せないプライドを見え隠れさせつつ。

 ひとつ一つの日記を見ていくと、死ぬことを怖がったり再起を期待したりといった、助けを求める心境もわりとはっきり残しているのが分かる。だけど、俯瞰でみると、彼は「誰にも邪魔されず、計画通り自殺するための舞台」としてブログを利用していたのではと思えてくる。

sn003b.PNG 「死ぬまで後●日」という後戻りできない縛りをつけて日記を続けることで、意識が最後まで逃げないようにしたんじゃないだろうか。その縛りを強めるのに、読者の目が有効だったのは間違いない。どの日記も常に読者に語りかけるように書いていて、読者にどう思われているか気にする記述も毎回のようにあった。それでいて、本当の読者の「声」は耳に入らないよう、方向転換以降のコメント欄は閉鎖している。決定的な個人情報も最後まで隠し続けた。外部を最大限に利用しつつ、外部からは何も働きかけできない――その状態を意識的に作っていた気がする。

 最後のほうの日記からは、脳内の読者に向かって「死ぬ死ぬ詐欺の奴らとは違う。自分はやるといったらやるんだ」と叫んでいるような印象を受ける。そして、その勝負に勝つことが、誰かに救いの手を差し延べられることよりも優先しているように感じた。

 ネットは現実社会と切り離しやすいから、こういうブログも狂言と受け取る人はけっこう多いし、実際にそういう例もある。ただ、「無への道程」については本気だと思う。
posted by 古田雄介 at 16:43 | Comment(10) | TrackBack(0) | 雑文、他 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
無への道程を書いていた方どうなったんでしょうかね? 
Posted by 36歳男 at 2012年11月11日 17:32
>36歳男さん
ネットの情報だけだと確証は掴めないですが、亡くなった可能性が高いと思っています。いろいろ残念ですけどね。
Posted by 古田雄介 at 2012年11月12日 05:53
ずっとひっかかりそうです
関係無い他人ですが
Posted by at 2012年11月14日 12:22
はじめまして
「終る世界」と同様な知性と静けさを感じる
「無への道程」のブログは好きでした
「終る世界」はネタ説もありますが
「無への道程」の作者は亡くなってそうですね

古田さんの分析が鋭く納得し
思わずコメントしました
Posted by ぴよ at 2015年04月12日 16:03
ぴよさん
はじめまして。書き込みありがとうございます!

確かに、終わる世界はミラーサイトしか残っていなくて、周囲の情報から真贋調べるのも難しいですよね。
Posted by 古田雄介 at 2015年04月12日 17:10
僕は正直言って「無への道程」より、氏ムシメさんの「日本一才能のない漫画家志望(志望)」の方が悲壮感と絶望感を感じます。
氏ムシメさんは無への道程とは違い、貧困や卑屈などに苦しむ窮屈で絶望的な日々の心情をありのままに綴っていたからこそ、リアリティがあると感じました。亡くなった事は事実でニュースにもなりましたしね。

でも、無への道程は本当に亡くなったのかどうかが不明な上に、少しネタ臭いと感じます。
Posted by まさ at 2015年06月23日 13:24
まささん
書き込みありがとうございます。

たぶん酔っている感じがあるところがネタくささにつながっているのかなと思います。氏ムシメさんはおっしゃるとおり苦悩を表に出すときに余計な要素がないですよね。ただ、無への道程さんは自殺の舞台に立ち続けるために酔い続けていた感があって、自殺するために自殺した心境としてはリアリティを感じます。

確かに確認する術はないんですけどね。
Posted by 古田雄介 at 2015年07月04日 16:08
自殺した人のブログと言えば、「気味が悪い、君」もご存知でしょうか?
http://bukimmiotoko.blog.fc2.com

この人のブログもなかなかの悲壮感とリアリティがありますし、社会的にも考えさせられる内容です。それだけではなく、彼も無への道程を知っており、影響を受けている事が分かります。
Posted by やすた at 2015年08月16日 08:02
>やすたさん
書き込みありがとうございます。
歯科技工士として頑張って、でも心が折れて・・・という心の動きが克明に記されていますね。35歳まで生きるという自分ルールさえ脱ぎ捨てたところに強い絶望を感じました。無への道程も自殺願望の追い風になった風はありますよね。
Posted by 古田雄介 at 2015年08月16日 10:50
彼のブログ全部読みましたが
やはり「実行」したんだと思います
(考えたくないけど失敗して後遺症生活を送っている可能性もある

彼の2011年04月02日の閉鎖前のコメント欄を見ればこの世が嫌になるのも理解できます
Posted by at 2015年10月13日 18:16
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